はじめに:ユーザーの「シナリオ」に応えるコンテンツ作り
前回の「応用編1」では、ユーザーが実際に検索エンジンやAIに投げかける「質問キーワード」をリサーチする具体的な手法について学びました。これにより、私たちはユーザーの具体的な疑問を数多く手に入れることができました。
しかし、これらの質問をただ羅列して答えるだけでは、AI時代に求められる高品質なコンテンツにはなりません。次のステップは、これらの「点」である質問を、ユーザーの行動や感情という「線」で結びつけ、一つの物語として捉える「コンテンツ企画」です。
本記事では、会話型・音声型検索を強く意識し、ユーザーの検索意図を深く分析するための「ペルソナ」と「ユーザーシナリオ」という手法を解説します。このプロセスを通じて、単なる情報の断片ではない、ユーザーの状況そのものに寄り添うコンテンツを企画する方法を学んでいきましょう。
1. なぜ「キーワード」から「シナリオ」へ移行するのか?
従来のコンテンツ企画は、特定のキーワードで上位表示されることを目指し、そのキーワードの検索意図を満たす情報を網羅的に盛り込む、という考え方が主流でした。しかし、AIとの対話が当たり前になった今、私たちはより一歩踏み込む必要があります。
ユーザーは、AIや音声アシスタントを、単なる情報検索ツールとしてだけでなく、課題解決のための「相談相手」として利用します。彼らは一問一答で完結するのではなく、AIとの対話を通じて、徐々に疑問を解消し、次の行動を決定していきます。
この一連の行動と感情の流れを「ユーザーシナリオ」として捉え、そのシナリオ全体をサポートするようなコンテンツを企画すること。これが、AI時代におけるコンテンツ企画の核心です。キーワードという「点」ではなく、ユーザーが課題に直面し、解決に至るまでのシナリオという「線」で考えることで、コンテンツはより深く、より価値のあるものになります。
2. ステップ①:ペルソナ設定でユーザーを具体化する
優れたシナリオを描くためには、まずその主人公、すなわちターゲットユーザーを具体的に定義する必要があります。そのための手法が「ペルソナ」設定です。ペルソナとは、自社の製品やサービスの典型的なユーザー像を、架空の人物として詳細に設定したものです。
曖昧な「30代女性」ではなく、具体的な人物像を描くことで、チーム内での認識を統一し、ユーザーの感情や行動をよりリアルに想像できるようになります。
ペルソナ設定の例
項目 | 設定内容 |
名前 | 佐藤 美咲(さとう みさき) |
年齢 | 32歳 |
職業 | 都内の中小企業で働く事務職 |
家族構成 | 夫、長女(3歳) |
ITリテラシー | 日常的にスマートフォンやPCを利用。SNSはInstagramをよく見る。 |
悩み・課題 | 最近、子どもの将来の教育費に漠然とした不安を感じ始めた。周囲で「新NISA」が話題になっており、興味はあるが、投資は全くの未経験でリスクが怖い。何から手をつけていいか分からず、一歩を踏み出せないでいる。 |
このようにペルソナを具体化することで、佐藤さんがどのような言葉で検索し、どのような情報に安心し、どのような点に不安を感じるかを、より深く共感しながら考えることができます。
3. ステップ②:ユーザーシナリオで行動を可視化する
ペルソナが設定できたら、次にそのペルソナが課題解決のためにどのような行動を取るかを時系列で描いた「ユーザーシナリオ」を作成します。
佐藤さんのユーザーシナリオ例
- 認知(きっかけ):Instagramで、同世代の友人が「新NISAを始めた」という投稿をしているのを見て、改めて興味を持つ。
- 初期調査(最初の問い):夜、子どもが寝た後にスマートフォンで「nisa 初心者 何から」と検索。あるいはスマートスピーカーに「ニーサって、初心者はまず何をすればいいの?」と話しかける。
- 情報収集(深掘り):いくつかの解説記事を読む中で、「つみたて投資枠」と「成長投資枠」という言葉を知る。「nisa つみたて 成長 違い」と追加で検索。
- 不安の言語化:メリットだけでなくリスクも気になり始める。「nisa デメリット」「nisa 元本割れ 確率」といった、よりネガティブなキーワードで検索する。
- 具体的な行動検討:いくつかの証券会社の名前を知り、「楽天証券 sbi証券 nisa 比較」のように、具体的なサービス名で比較検討を始める。
- 最終決定・行動:手数料の安さやアプリの使いやすさといった情報から、自分に合った証券会社を一つに絞り、口座開設のページへ進む。
このシナリオは、佐藤さんが「NISAを始めたい」という一つの大きな目標の中で、認知→調査→比較検討→行動というフェーズを移行しながら、その時々で異なる疑問(検索クエリ)を抱いていることを明確に示しています。
4. ステップ③:シナリオからコンテンツテーマを導き出す
ユーザーシナリオが完成すれば、作るべきコンテンツは自ずと見えてきます。それは、シナリオの各ステップでユーザーが抱く疑問に、一つひとつ丁寧に応えるコンテンツ群です。
佐藤さんのシナリオからは、以下のようなコンテンツテーマが導き出せます。
- 初期調査フェーズ向け:
- テーマ案:「【知識ゼロから】新NISAの始め方、たった3つのステップで完全解説」
- 内容:口座開設から商品選びまでの全体像を、専門用語を避け、図解を多用して解説する。
- 情報収集フェーズ向け:
- テーマ案:「『つみたて投資枠』と『成長投資枠』の違いは?あなたに合うのはどっち?」
- 内容:両者の違いを具体的な投資スタイルに当てはめて比較し、どちらを優先すべきかの判断基準を示す。
- 不安解消フェーズ向け:
- テーマ案:「NISAのデメリットとリスク対策を正直に解説。元本割れが怖いあなたへ」
- 内容:考えられるリスクを隠さず提示し、それに対して「長期・積立・分散」といった具体的な対策をセットで解説することで、ユーザーの不安に寄り添う。
- 比較検討フェーズ向け:
- テーマ案:「【2025年版】初心者向けNISA口座、徹底比較!楽天証券 vs SBI証券」
- 内容:客観的なデータ(手数料、取扱商品数など)と、実際の利用者の口コミ(E-E-A-Tの「経験」)を交えながら、両者の特徴を公平に比較する。
このように企画されたコンテンツ群は、それぞれが独立していると同時に、ユーザーシナリオという一本の線で繋がっています。これにより、サイト全体でユーザーをゴールまで導く、強力なトピッククラスターを自然と形成することができるのです。
5. まとめ:ユーザーの物語に寄り添う
本記事では、質問キーワードリサーチの次のステップとして、ペルソナとユーザーシナリオを活用したコンテンツ企画の手法を解説しました。
- AI時代のコンテンツ企画は、キーワードという「点」ではなく、ユーザーの行動と感情を捉えたシナリオという「線」で考えます。
- ペルソナを設定することで、ターゲットユーザーを具体化し、そのニーズに深く共感できます。
- ユーザーシナリオを描くことで、ユーザーが課題解決に至るまでの各ステップで抱く疑問が明確になります。
- シナリオの各ステップに対応するコンテンツを作ることで、ユーザーをゴールまで導き、サイト全体の専門性を高めることができます。
優れたコンテンツとは、ユーザーの物語に寄り添い、その時々で最適な道標を示すガイドのようなものです。この人間中心のアプローチこそが、AIには真似のできない価値を生み出し、結果として検索エンジンからも高く評価されることに繋がるのです。
次回、「応用編3」では、こうして企画した内容を、AIが最も理解しやすく、抽出しやすい形に整理するための「見出しと文章構成」の技術について解説します。