はじめに:テキストの壁を越える、次世代の最適化
前回の「応用編21」では、ローカルSEOの世界がAIによってどう変わり、地域ビジネスが音声検索やチャット検索にどう対応すべきかを探りました。これにより、私たちは「地域」という軸での最適化戦略を学びました。
しかし、AIの進化は、私たちが情報を伝える「形式」そのものにも革命をもたらしています。AIはもはや、テキストだけを読んで世界を理解しているわけではありません。画像を見てその中身を認識し、動画を見てその文脈を把握する「マルチモーダルAI」へと進化を遂げています。ユーザーは、キーワードで検索するだけでなく、スマートフォンのカメラをかざして「これ何?」と尋ねる時代になりました。
本記事では、この新しい現実に対応するための「マルチモーダルSEO」について解説します。これは、テキストコンテンツだけでなく、画像や動画といった視覚的コンテンツを、AIが正しく理解し、評価できるように最適化する技術です。コンテンツの価値を最大限に引き出し、あらゆる形式の検索で発見されるための、次世代のSEO戦略に踏み込みましょう。
1. マルチモーダルSEOとは何か?
マルチモーダルSEOとは、テキスト、画像、動画、音声といった複数の情報形式(モダリティ)にわたってコンテンツを最適化し、AIがそれらを統合的に理解できるようにすることで、検索における可視性を高める戦略です。
この背景には、GoogleのAI(Geminiなど)が、人間のように複数の種類の情報を同時に処理できる「マルチモーダル能力」を持っていることがあります。
- AIは「見る」:AIは、画像に写っている物体(例:特定の犬種、ランドマーク)を認識し、その画像のスタイル(例:写真、イラスト)や雰囲気まで理解します。
- AIは「聞く」:AIは、動画の音声から自動で文字起こしを行い、その内容をテキスト情報として把握します。
- AIは「関連付ける」:AIは、ページ上のテキスト、画像、動画が、すべて同じ一つのテーマについて語っていることを理解し、それらを関連付けてトピック全体の理解を深めます。
この能力により、Google SGE(AIオーバービュー)は、テキストの要約だけでなく、最も的確な画像や動画のクリップを回答に含めることができます。マルチモーダルSEOは、このAIの回答に、自社の視覚コンテンツが選ばれることを目指す施策なのです。
2. 戦略①:AIに「見える」ようにする画像最適化
画像は、コンテンツの魅力を高め、読者の理解を助けるだけでなく、AIに対する重要な情報源となります。
ALTテキスト:AIへの「第一声」
ALTテキスト(代替テキスト)は、画像が表示されない場合に代わりに表示されるテキストですが、AIがその画像の内容を理解するための最も重要な手がかりです。
- 悪い例:alt=”犬”
- 良い例:alt=”公園の芝生の上で、赤いボールで遊んでいるゴールデンレトリバーの子犬”
具体的で、情景が目に浮かぶような記述を心がけましょう。これは、視覚障害を持つユーザーに対するアクセシビリティ向上にも直結します。
ファイル名と文脈
- 説明的なファイル名:IMG_1234.jpgではなく、how-to-tie-a-necktie-step3.jpgのように、画像の内容を英語で簡潔に説明するファイル名を付けましょう。
- 周辺のテキスト:AIは、画像がどのテキストの近くに配置されているかを見て、その文脈を判断します。関連する文章のすぐ隣に画像を配置することが重要です。
ImageObjectスキーマ
応用編6でも触れましたが、ImageObjectスキーマを使って、画像のライセンス情報、撮影日、作者といったメタデータをAIに明示的に伝えることで、画像の信頼性と文脈をさらに強化できます。
オリジナル画像の価値
ストックフォトも便利ですが、自社で撮影したオリジナルの写真や、独自に作成した図解・インフォグラフィックは、E-E-A-Tの「経験」を証明する強力な証拠となります。AIは、Web上で他に存在しないユニークな画像を高く評価する傾向があります。
3. 戦略②:AIに「聞かせる」動画最適化
YouTubeは世界第二の検索エンジンであり、そのコンテンツはAIにとって巨大な情報ライブラリです。
字幕とトランスクリプト(文字起こし)
動画SEOにおいて最も重要なのが、正確な字幕ファイル(SRTファイルなど)を用意することです。AIは、この字幕(またはYouTubeが自動生成するトランスクリプト)を「読む」ことで、動画の内容を完全にテキスト化し、理解します。これにより、動画内で話されている全ての言葉が検索対象となります。
動画のチャプター機能
長い動画は、トピックごとにチャプター(タイムスタンプ)で区切ることで、ユーザーとAIの両方にとって非常に分かりやすくなります。
- 例:「00:00 はじめに」「01:30 NISAのメリット」「05:10 NISAのデメリット」
AIは、ユーザーの特定の質問に対し、動画全体ではなく、最も関連性の高いチャプター部分をピンポイントで提示することができるようになります。
タイトル、説明文、タグ
これは動画SEOの基本ですが、AIにとっても重要です。
- タイトル:動画の内容を的確に表し、ターゲットキーワードを含める。
- 説明文:動画の概要を詳しく説明し、関連する情報やウェブサイトへのリンクを記載する。
- タグ:動画のトピックに関連するキーワードを複数設定する。
VideoObjectスキーマ
自社サイトに動画を埋め込む際は、VideoObjectスキーマを実装しましょう。動画のタイトル、説明、サムネイルURL、再生時間、そしてトランスクリプト(文字起こし)の全文を構造化データとして提供することで、AIの理解を最大限に助けます。
参考事例:
DIYやホーム改善の情報を発信する米国の人気サイト「The Spruce」は、マルチモーダルSEOの優れた実践者です。「How to Paint a Room(部屋の塗り方)」のような記事では、テキストによる詳細な手順解説に加え、各ステップを補完する高品質な写真、そして全体の流れを示す動画が効果的に配置されています。これにより、ユーザーは自分に合った形式で情報を得ることができ、AIもまた、このページが「部屋の塗り方」というトピックに関する包括的で信頼できる情報源であると、多角的に理解することができます。
4. まとめ:コンテンツを多層的な体験へと進化させる
本記事では、AIのマルチモーダル能力に対応するための、画像と動画の最適化戦略について解説しました。
- AIはテキストだけでなく、画像や動画の内容そのものを理解して、検索結果の生成に利用します。
- 画像最適化では、具体的で説明的なALTテキストと、オリジナル画像の使用が鍵となります。
- 動画最適化では、正確な字幕(トランスクリプト)と、内容を区切るチャプター機能が極めて重要です。
- これらの視覚コンテンツにスキーママークアップを施すことで、AIへの情報伝達をさらに正確にできます。
マルチモーダルSEOとは、単にSEO対策の対象を広げることではありません。それは、私たちのコンテンツを、単一のテキスト情報から、ユーザーが多様な方法で体験できる「多層的な情報パッケージ」へと進化させる試みです。この豊かな情報体験こそが、ユーザーの深い理解と満足を生み、結果としてAIからも高く評価されることに繋がるのです。
次回、「応用編23」では、AI時代における究極の差別化戦略として、「独自データと付加価値」をテーマに、AIには絶対に生み出せない一次情報をいかにして作り出し、コンテンツの核とするかを探ります。