はじめに:検索の外で始まる情報探索
これまでの記事では、GoogleやBingといった「検索エンジン」が、いかに生成AIを統合し、その姿を変えつつあるかを見てきました。また、PerplexityのようなAIネイティブな新しい検索サービスも登場しています。しかし、現代の情報探索の変革は、検索エンジンの枠内だけにとどまりません。
今、多くのユーザーは、何かを調べるための出発点として、必ずしも検索窓にキーワードを打ち込むわけではなくなりました。その代わりに、ChatGPT、GoogleのGemini(旧Bard)、Anthropic社のClaudeといった、対話型のAIサービス(LLMチャットサービス)に直接質問を投げかけています。
これらは本来「検索エンジン」ではありませんが、事実上、情報収集ツールとして強力な地位を築きつつあります。本記事では、これらの主要な対話型AIがどのように情報探索のあり方を変えているのか、その特徴とユーザー行動への影響について解説します。
1. 検索エンジンではない「情報探索ツール」
まず、ChatGPT、Gemini、Claudeといったサービスと、従来の検索エンジンとの根本的な違いを理解することが重要です。
- 情報源の違い
- 検索エンジン (Google, Bing):リアルタイムでWeb全体をクロール(巡回)し、インデックス(索引)した膨大なページの中から、クエリに最も関連性の高いものをリストアップします。「Web上の情報の案内役」です。
- 対話型AI (ChatGPT等):基本的には、開発段階で学習した巨大なデータセット(トレーニングデータ)を基に回答を生成します。そのため、学習した時点までの情報しか知らない「知識のカットオフ」が存在します。ただし、近年ではWebブラウジング機能を搭載し、リアルタイムの情報を検索して回答に反映させる能力も持っています。
- アウトプットの違い
- 検索エンジン:情報のありかを示す「リンクのリスト」を提供します。最終的な情報の解釈や統合はユーザーに委ねられます。
- 対話型AI:ユーザーの質問に対し、情報を統合・要約した「完成された文章」で直接回答します。
この「直接回答」という性質が、ユーザーにとって非常に魅力的であり、情報探索のショートカットとして利用される大きな理由となっています。
2. 主要な対話型AIサービスの特徴
現在、特に存在感を放っている3つの主要なサービスには、それぞれ異なる特徴があります。
ChatGPT (OpenAI)

生成AIブームの火付け役であり、最も広く知られているサービスです。汎用性が非常に高く、質疑応答、文章作成、要約、翻訳、アイデア出し、プログラミングなど、あらゆる知的作業のパートナーとして活用されています。有料版のChatGPT Plusでは、最新の高性能モデル(GPT-4など)が利用できるほか、Webブラウジング機能やデータ分析機能、DALL-E 3による画像生成など、多彩な機能が統合されています。
Gemini (Google)

Googleが開発した、その名も「Gemini」という高性能LLMを搭載したサービスです。最大の強みは、Google検索と深く連携している点です。これにより、リアルタイムで正確な情報を回答に反映させる能力に長けています。また、GmailやGoogleドキュメントといった他のGoogleサービスとの連携も進んでおり、Googleエコシステムの中核を担うAIアシスタントとしての地位を確立しつつあります。
Claude (Anthropic)

AIの安全性や倫理性を重視する企業、Anthropicによって開発されました。特に、一度に処理できるテキスト量(コンテキストウィンドウ)が大きいことで知られており、長文の論文やレポートを読み込ませて要約させたり、詳細な質疑応答を行ったりする能力に優れています。生成される文章が非常に自然で、丁寧かつ創造的であると評価されることも多く、ライティングやリサーチの分野で高い支持を得ています。
3. ユーザー行動への影響:検索エンジンを「バイパス」する人々
これらの対話型AIの台頭は、ユーザーの行動に明確な変化をもたらしています。
- 複雑な問いの相談相手として
「〇〇と△△を比較して、私におすすめなのはどっち?」といった、単一の正解がない相談や、複数の要素を考慮する必要がある複雑な問いに対し、ユーザーは検索エンジンで断片的な情報を集めるのではなく、対話型AIに壁打ちするように相談するようになりました。 - 学習と理解のツールとして
何か新しい概念を学ぶ際に、「〇〇を初心者に分かりやすく説明して」といった形で、自分の知識レベルに合わせた解説を求めることができます。これは、一方的に情報が提示される検索エンジンにはない、双方向の学習体験です。 - 情報探索の第一歩として
あるトピックについて調べ始める際に、まず対話型AIで全体像や主要な論点を把握し、その後、より詳細な情報を求めて検索エンジンを使う、というハイブリッドな利用法も一般化しています。
これらの行動は、これまで検索エンジンが独占してきた「情報探索の入口」という役割を、対話型AIが部分的に奪いつつあることを示しています。
4. SEOへの示唆:検索の外側でのブランド構築
このユーザー行動の変化は、SEO戦略に新たな視点を求めます。
- LLMOの重要性の再確認
基礎知識編6で解説したLLMO(大規模言語モデル最適化)の重要性が、ここで改めて浮き彫りになります。AIがWeb検索をせずに回答する場合、その知識は学習データに依存します。Web上で自社のブランドや製品、専門知識に関する言及を増やし、AIの「基礎知識」の一部となることを目指す長期的な取り組みが不可欠です。 - ブランド指名検索の価値向上
ユーザーがAIに「[あなたのブランド名]について教えて」と直接尋ねる未来を想定し、ブランド自体の認知度と信頼性を高める活動が重要になります。 - 情報源として認識されること
ブラウジング機能を持つAIは、回答の際にWebサイトを参考にします。この時、情報源として引用されるためには、やはりE-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)の高い、質の良いコンテンツが不可欠です。結局のところ、検索エンジン向けの良い対策は、対話型AIにも有効に働くのです。
5. まとめ:情報生態系の変化を捉える
本記事では、検索エンジンの外側で急速に台頭する主要な対話型AIサービスと、それがもたらす影響について解説しました。
- ChatGPT、Gemini、Claudeは、検索エンジンとは異なる仕組みで動作する、新しいタイプの情報探索ツールです。
- ユーザーは、複雑な質問や学習目的でこれらのAIを積極的に利用し、検索エンジンをバイパスする行動が増えています。
- この変化は、SEO担当者に対し、検索の外側でのブランド構築(LLMO)や、より本質的なコンテンツ品質の追求を求めています。
もはや、私たちの情報生態系はGoogle検索だけが中心ではありません。多様なAIが介在するこの新しい世界でユーザーに情報を届けるためには、より広く、より本質的な視点での戦略が不可欠です。
次回、「基礎知識編13」では、この変化の時代において、なぜ「コンテンツ品質とE-E-A-Tの再確認」がこれまで以上に重要になるのか、その理由を深く掘り下げていきます。